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「なんだ。冗談ね。びっくりした」
色んな意味で。
「はは。実際そんなことしないよ。周りが豪華で紛れて目立たないけど、あの指輪だって立派な文化遺産だ」
ほっと息をつくとふと店内に流れるBGMが耳に入ってきた。英語ではないどこか異国の言語。
「でも本当に欲しくなっちゃうくらい綺麗な指輪よね」
ーーこの男が、もし私の心の中を覗くことが出来たら驚くだろうか。
この真っ白で何も知らない男が、私がそういう美術品を盗ることをなりわいとしていると知ったら。
「あぁ。君にとてもよく似合うと思うよ」
「なにを根拠にそんなこと」
「君の唇の色。指輪のルビーと一緒だ」
そう言いながらどさくさに紛れてアリが手を伸ばしてきた。もちろんはたく。
アリは肩をすくめて背もたれに寄りかかった。
「君にはめてあげたい」
「それは光栄ね」と、ミラナはアリを一瞥して「玉の輿かしら」と言った。
「あなたは何をしている人なの?」
「しがない公務員だよ」
「じゃあその腕時計は?」
ミラナが指したのは彼のブランドものの腕時計。
「…ちょっといい肩書きを貰ってるかな」
ーーだんまりは良くないわよ。
「…そ。別にいいのよ?謎の多いミステリアスな男って素敵だと思うわ」
「僕は正直に言ってるさ。君に何一つ嘘は言っていない」
「でも全て話してるわけでもない」
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