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反射的に座る私。
床に手をついてから私は表情をしかめた。
昔、お母様に言われたことを思い出したから。
お母様曰く――
『あなたはまるでわんこみたいな性格ですねー』
と言われたことがあるけど、クールの私に向けて言うセリフではない。
私がため息をしていると。
ぎむっ、と私の頭上で空間を爪で引っ掻くような音。
私の上を何かが通過する。
生暖かい風が私の髪を揺らした。
リクヤが声をかけなければ私の命はなかったに違いない。
私は慌てて立ち上がり、後ろに後退しつつ前方を見る。
まず私の目が捉えたのは血のように紅い光――否、それは目。
妖や鬼の特徴。
私より大きな“それ”は輪郭からして女性のように見える。
年齢は三十代前半、色の抜けた白い残ばら髪が風で揺れている。
彼女の身を隠しているぼろ布のようなものはかつてはスーツのような服だったのだろう。
彼女の目は顔の真ん中に一つ、肌は浅黒い。
私は知っている。
彼女が“何なの”か。
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