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「……“鬼堕ち”……」
私は小さく呟いた。
人間は闇の心――憎悪、嫉妬、恨みなど――つまり負の感情を爆発させるとその身を異形に変貌させることがある。
それが“鬼堕ち”。
これはある意味、鬼よりタチが悪い。
それはまるで獣――感情より本能が勝っている。
自我が残っているほうが珍しい。
まずいって“鬼堕ち”を治すのは難しい。
“鬼堕ち”を前にしたら殺すのが手っ取り早い。
でも、私は“仕事”として割り切ることができない。
『お嬢』
「分かっている……」
リクヤに私は頷いて見せる。
目の前の“鬼堕ち”を見逃したりしたら他の人に危害がおよぶ。
そうなってはいけない。
決めたはずだ、“あの時”から。
まだ“角”が生えてないのがせめてものすくい。
もし“角持ち”ならその姿を変貌させ、それだけで対処が難しくなる。
私は息を吐き出してから札を取り出す。
霊力がこめられた“霊符”。
自らの霊力を扱うのを不得意な私の“武器”であり“防具”。
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