赤と黄色のご馳走

11/14

359人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「……」 引っ込んだはいいが、靴を脱がずに暗い廊下を見つめる。 扉を閉める時、視界に何かが映り込んだ気がする。 心に引っ掛かって、閉めた玄関扉をもう一度開ける俺は、外に顔だけ出して確認する。 見間違えか? アパートの入り口、深瀬さんが消えていった場所に目を凝らしてみる。 暗闇の中に、女が立っているのが見えた。 「……堀内?」 なんで? 顔を出した俺に気付く堀内は、慌てた様子で深々と頭を下げる。 「何してんの……」 まるで不審者を見るような目で、下にいる堀内を見下ろす。 「プ、プリント! プリントを預かってきましたっ」 「ちょ」 ここまで声を届かせるためか、大きく口を開けて喋る堀内は、頭の上で白い何かを旗を振るみたいにブンブン振っている。 おいおい、もう外は真っ暗なんだよ。お年寄りは寝てても可笑しくない時間なんだよ。 心の中で声を張りながら階段を駆け下りると、アパートの敷地に入ってきた堀内の前まで行って、手に持っている物を取り上げる。 ――テシッ それで丸い頭を軽く叩いてから確認すれば、紙にビッシリ並んでいる文字。 「い、痛……?」 「こんな紙切れ痛いわけないし。それに、叩かれるようなことしたアンタが悪い」 分かってるのか分かってないのか、堀内は『ごめんなさい』と大きな声で謝る。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

359人が本棚に入れています
本棚に追加