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「……」
引っ込んだはいいが、靴を脱がずに暗い廊下を見つめる。
扉を閉める時、視界に何かが映り込んだ気がする。
心に引っ掛かって、閉めた玄関扉をもう一度開ける俺は、外に顔だけ出して確認する。
見間違えか?
アパートの入り口、深瀬さんが消えていった場所に目を凝らしてみる。
暗闇の中に、女が立っているのが見えた。
「……堀内?」
なんで?
顔を出した俺に気付く堀内は、慌てた様子で深々と頭を下げる。
「何してんの……」
まるで不審者を見るような目で、下にいる堀内を見下ろす。
「プ、プリント! プリントを預かってきましたっ」
「ちょ」
ここまで声を届かせるためか、大きく口を開けて喋る堀内は、頭の上で白い何かを旗を振るみたいにブンブン振っている。
おいおい、もう外は真っ暗なんだよ。お年寄りは寝てても可笑しくない時間なんだよ。
心の中で声を張りながら階段を駆け下りると、アパートの敷地に入ってきた堀内の前まで行って、手に持っている物を取り上げる。
――テシッ
それで丸い頭を軽く叩いてから確認すれば、紙にビッシリ並んでいる文字。
「い、痛……?」
「こんな紙切れ痛いわけないし。それに、叩かれるようなことしたアンタが悪い」
分かってるのか分かってないのか、堀内は『ごめんなさい』と大きな声で謝る。
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