霞む瞼の裏

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  ――ガヤガヤ 構内にある食堂は、昼になるといつも腹を空かせた学生が流れ込んできて騒がしい。 ここの名物は、激辛豚(トン)カレー。 豚肉によく絡んだ熱々のルーは、誰かが口の中で花火でも打っ放してるんじゃないかって思うくらい刺激を与えてくれる。 友人とテーブルを囲んで座った俺の前で、その赤いカレーが湯気を立てて早く食べろと主張していた。 「馬木。辛くないの、それ」 「ん、旨いよ?」 一度も食べたことがないという友人に、食べてみな、とスプーンを差し出すと。 「あ、旨い。でも、辛いっ」 舌を出して、水の入ったグラスに手を伸ばしていた。 いくらだった? 400円。 安いね。 なんて会話をしながら、なんとなく食堂を見渡していた俺は、隅の方で話をしている男女に目が止まる。 カチャカチャと食器の音があちこちから聞こえて、それを耳にしながらカレーを口に運んだ。 この広い食堂でわざわざそんな隅っこで話をしなくても、と俺は学生から目を離さずに食事を続ける。
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