霞む瞼の裏

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一緒に街を歩いていて、俺が『あの人かっこいいな』なんて呟いた日には、代わりにアドレスを聞きに行ったり。 俺のことをからかう奴がいると、流そうとしている俺の隣で突っ掛かりに行ったり。 中には遊び半分でやってる奴もいるかもしれないけど、別にそれならそれでいいんだ。 自分の存在が嗜好が珍しいっていうのは、重々承知してるから。 だから尚更、影で笑ったり、好奇の目を向けたりしない友人を大切にしたいと思えた。 「聞こえなかったかな」 堀内は自分に声を掛けられたと思っていないのか、黙々と激辛カレーと戦っている。 「なぁ。彼女なんて名前?」 友人に聞かれてしぶしぶ名前を教えると、 「堀内さん」 今度は名前を呼んだ。 辺りを見回してこっちを向く堀内は、状況を掴めていない顔をしている。 「え……私、ですか?」 涙目の堀内が自信なさげに聞いてくると、その顔を見たみんなが同時に笑いをこぼした。 「なんで涙目なの?」 「タメなのに敬語」 「こっち来て食べなよ。馬木もいるんだし」 「え、でも」 俺の顔色を伺う堀内は、いつもなら気を効かせて断るんだろうな。 俺はもう面倒で、周りの連中に堀内を丸投げする。
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