霞む瞼の裏

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宮川の、俺を心配してくれてるんだろう言葉に、他からも声が掛けられる。 「俺も、うまくやっていけてんのか不安でならねーんだけど。馬木、女と付き合ったことないんだろ?」 「ハハ、お前は馬木のカーチャンかよ」 「馬木も、童 貞のこいつには言われたくないわなぁ」 会話を耳に入れながら、コップの水をちびちび喉に流し込む。 「俺は馬木の母親の話聞いた時から、カーチャンでもなんでもなるって思ったもん」 なんだそれ、と俺はコップの中で笑いをこぼす。 「なんで笑うんだよー」 「お前が良き友人なのは分かった。ありがと」 笑い終えてふと隣を見ると、堀内のスプーンが宙に浮いたまま止まっている。 「ひでぇよな。再婚相手に馬木押し付けて、自分は出ていくってよ」 「な……ほんとだよ」 たまにこの話題が出るけど、別にそれで俺達の空気が変わることはない。 当の本人が、侘(ワビ)しいなんて思ってないからだ。 代わりに愚痴をこぼしてくれるこいつらを見守る俺の心は、すこぶる穏やかだった。 それなのに。
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