霞む瞼の裏

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「馬木達も急げよ」 「馬木、ほんと悪かった。堀内さんもごめんね」 顔の前で片手を立てて謝る仕草をする友人を、真顔で見上げる。 「お前、今度謝ったらデコチューな」 「もう謝りません!」 「ハハ」 ガタガタとイスが引かれて、次の教室へ向かう友人達に遅れて俺も立ち上がると、堀内の頭のてんこつを見下ろす。 「何も珍しい話じゃないよ」 「……」 俺が小学生の頃、母親は3度再婚を繰り返した。 そして今の親父と再婚した後――ある日忽然と姿を消した。 ここから遠い遠いところで知らない男と暮らしていることを、俺は後から知った。 家を出ていく時、母親の腹の中には子供がいたらしいけど、俺には分かる。 それは親父の子供じゃない。 俺が高学年になった頃、母親が親父のいない間にこっそり男を家にあげていたのを知っている。 パコパコ子作りしている場面に遭遇した俺は、それが少しトラウマになった。 その時の子供なのかって考えると、無性に吐き気が起こる。 そのことが、俺が男を好きになることと何か関係しているのか考えたこともあるけど、幾ら考えても分からないものは分からなかった。 「堀内が気に病むことなんてないから」 俺と親父は今も仲良くやってるし。 「なんら珍しいことじゃない。そこら中にゴロゴロ転がってる話だよ」 だからアンタがそんな顔すんな、とトレーの角で軽く、本当に軽く堀内の頭を小突く。
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