霞む瞼の裏

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待ってくれている宮川と、まだイスに座っている野崎に目配りをして、その場から去ろうとした。 「私――」 後ろから聞こえた声に足を止めて振り返ると、まだ半分残ったカレーをじぃっと見つめる堀内の姿がある。 「好きです、馬木さんのこと」 視界の端で、宮川が目を丸くしている。 野崎も、トレーを持とうとした手を止めた。 ガーッと温度計のメーターが上がるみたいに、堀内の首から上が赤くなる。 そうなるって、自分でも分かってるだろうに。 「知ってる」 そう言って前を向くと、カウンターに食器を返しに向かう。 耳に入ってきた自分の声が、思ったほか柔らかかった。 なんなんだよ……。 堀内からその言葉を聞くのは初めてじゃないのに。 野崎達にカミングアウトして、『だからどうした』と言ってもらった時のように。 “ありがとう”に似た感情で心が満たされる。 なんだ、それ。 この違和感を吐き出すように、俺は息をこぼして哂(ワラ)った。
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