霞む瞼の裏

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  教室に入ると後ろの方の席は埋まってしまっていて、俺達は仕方なしに他の空いているところに座る。 1脚の長机に3人が座れるようになっているが、宮川はいつも俺達の後ろの席に1人で座った。 俺は後ろに顔を向けると、カバンから教科書を取り出している宮川に軽い口調で話し掛ける。 「山先、来てなくてよかったね」 視線を落としたまま宮川からは『あぁ』としか返ってこないけど、これがこいつの平常運転。 「ねぇ、馬木」 「ん?」 「さっきの堀内さんのアレさ、彼女なりの励ましだったんじゃないかな」 今しがた教室に入ってきた山先を目で追いながら、机の上で手を結んだ野崎が言う。 「励まされても」 「俺も最初聞いたときは、どう言っていいか分からなかったから」 「『それが?』って言ってくれたじゃん」 「いや、今思うとその言葉はないよね」 過去を思い出すように笑って、野崎は続ける。 「でも、あの時は本当にそう思ったから。それで俺の馬木を見る目が変わることはない、って言いたかった。 だから、堀内さんの気持ちは分かる気がする。自分の中で言葉を作るより先に、気持ちが口から出ちゃったんだ」
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