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「仕事終わったの?」
『うん。これから会えないかなと思って、電話かけた』
深瀬さんは物腰が柔らかい人で、同じ20代なのに凄く落ち着いていた。
それが電話越しにでも分かるくらい、耳に入ってくる口調は穏やかで優しい。
「ごめん、友達が来てるんだ」
『あ――それなら仕方ないね。うん、ならまた今度誘うよ』
「分かった。うん、じゃあ」
向こうが切ったのを確認してから携帯を耳から離すと、5秒ほど経って堀内が恐る恐る口を開く。
「いいんですか? 断ったりして」
友達ってどういうこと?と詰め寄られるのかと思いきや、堀内が気にするところはそこじゃないらしい。
「気分じゃないから」
そして俺も、深瀬さんに『堀内がいるから』とは言わない。
ここで堀内を帰して深瀬さんと外で会っても、飯食ってドライブして、それ以外何もない。
それだったら、堀内と一緒にいるのとそう変わりないから。
深瀬さんはいい人だけど、恋人になってほしいとかじゃない。
することしないなら、会う必要はないと思う。
だから、やっぱり――。
「堀内」
「はい」
「さっきの今で悪いんだけど、もうこの家には来ないでくれる?」
自分でもこれは酷いなって思うけど、堀内は一瞬表情を固まらせるものの、
「うん、分かった」
と、目尻を垂らして頬を上げて笑った。
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