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湯沢 聖
家は、祖父と祖母が花屋を営んでいた。
駅からは距離もあるし、近所の人達がたまに買いにくるぐらいの惰性でやっている店。
小さい頃から、花屋だけでは儲けは無いだろうな、冷めた目で見ていた。
それは当たっていて、両親は働いていて夜遅くまで帰って来なかった。
この花屋を続ける為に、家族という機能が作動していない気がして、
俺はこの花屋や花の香りが好きでは無かった。
香織さんと出会ったのは、仕事先で。
特にしたい事も無かった僕は、この町に帰ってきてラブホに就職していた。
ただ、祖母たちは他界したのに、未だに看板を下げないあの家に帰るのが酷く不快で、女性の所を転々としていた。
香織さんは、パッと見は地味で淑やか。同じラブホで働いていていたのに、会話もした事が無いし、関わりは無かった。
ただ、彼女が退職して結婚式場に転職する事になり、送別会が行われた。
その時に彼女から誘ってきたんだ。
『いつも違う女の香りがするわね。私、そんな男、嫌いなのよね』
ワインの入ったグラスを揺らしながら不敵に笑ってそう言った。
『甘えさせてくれるなら誰でも良いの?』
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