溶かして固めたキモチ

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俺はねぇ……どうだろう?と、笑って誤魔化された。 車通りの多い道沿いの歩道で、野崎の尻に膝蹴りしてやる。 「いってー。なんで俺蹴られたの?」 「ムカついたから」 「ハハ。さすが悪者だ」 次第に立ち並んでいた店の電飾は視界から消え、閑静な住宅街に入った。 さっきまで会話の邪魔をしていた車の走行音もパタリと止む。 ――ハハハ 明かりが灯った家、一家団欒の笑い声。 「……」 誰かの家の前を通る度、夕飯の匂いが鼻を掠める。 「いいよな、こういうの」 「フ、どういうの?」 実家住みの野崎には分からないか。 これから帰って 自分以外の人が作った料理を食べて 人が入れた風呂に入るんだもんな。 「ハー、寒いなー」 言葉と一緒におもいきり何かを吐き出す。 冷たい向かい風が吹いた。 冬の寒さも相まって、なんだか切なくなった。 「バイだってことを公言してきてさ、それでも傍にいてくれる子って初めてじゃない?」 ……初めて、だけど。 「いてくれるって……それでもって……なんだよ」 いじけたように口をすぼめて言えば、野崎が軽い口調で謝る。 「ごめん。今までからかってくる人とかいたでしょ? 誰に対してもオープンなのはお前の良いところだけど、たまにそれが心配なんだよ」 からかってくる奴、ね……。 まぁでも、 「堀内はそういうんじゃないだろ」 「お、分かってんじゃん」 伸びてきた手に、カシカシ髪を乱される。
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