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「ちょ、ワックス――」
「いいじゃない、もう夜なんだし」
絡まった髪を大雑把に整えていると、野崎が俺の横顔をじっと見てくる。
「? 笑うなよ、変にしたのはお前だかんな」
野崎の言う通りあとは家に帰るだけだ、変に跳ねてようがもういいさと髪を弄るのを止めると、野崎はハハッと声に出して笑う。
そうやっていつも笑ってるから、話したことない奴にも“いい人そう”って言われるんだ。
「どこも跳ねてないよ、イケメンくん」
「あー、なんかムカつく」
「ハハ。……ほら、馬木は案外弱虫だから」
「はい?」
「バイトでミスした時とか、男と別れた時とか」
1本2本と指を立てていく野崎。
どんどんその数が増えて、両手全部埋まってしまうんじゃないかとハラハラ焦る俺。
「誰が夜中まで愚痴聞いてると思う?」
「……でも、弱虫ではない」
「泣いてなかったっけ?」
「泣いてないっ」
身長が175あっても見下ろされてしまうんだから、いろいろと、野崎には一生勝てない気がする。
「堀内さんに泣かされるようなことがあったらどうしようかと思ってたけど、心配なさそうだ」
「お前……いくら冗談でも、他の奴等に俺が泣いたとか言うなよ?」
「フリ?」
「違う」
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