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頑張れったってな……。
「また明日っ。試験、最後まで気抜くなよ!」
片手を挙げて歩き出す野崎に、俺は力なく手を振り返す。
向き合って無理でしたっていうほうが残酷じゃないか。
――ボソ
「……しよ」
やっぱり無理だってなったら、どうしよ……。
――ヴー、ヴー
野崎と別れるのを見計らったようなタイミングで、ズボンの後ろポケットに入れてある携帯が震え出した。
あ、宮川。
画面に表示されている名前を見て、途端に罪悪感を覚える。
「ごめん、宮川」
“はい”とも言わずに電話に出る。
『う、馬木』
責められることを覚悟していたが、携帯から聞こえてきたのは宮川の焦ったような声だった。
「いや、ほんっとーに悪かった。謝る。ごめん」
『っどうしたらいい?』
「え?」
電話の向こうから、バイクがアクセルをふかす音がする。
――ウォン!
耳元で聞こえた騒音に俺は眉をしかめるが、うるさいと感じたのは一瞬で、すぐに音は遠ざかっていく。
「まだ外にいるの?」
『まだもなにも、今店を出たんだっ』
やっと、なのか? 宮川は気迫のこもった声で論(アゲツラ)う。
『どうして俺がっ――』
「本当にごめんて。今度学食奢るから、な?」
『明後日から春休みじゃないかっ』
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