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宮川、となだめるように名前を呼ぶと、携帯から深い深いため息が聞こえる。
『っ……ハァー――』
「堀内はどうしたの。隣にいるの?」
『異論はあるが、与えられた本分はちゃんと果たす性分なんだ。やっと送る決心がついて店を出たのに、あの女、トイレに行くと言って席を離れたっきり戻ってこない』
「腹こわしたのかな」
『いや違うだろ。……泣いてるんじゃないか?』
「うそ……泣いちゃった?」
『知らん。泣いてるところは見ていない。なぁ……俺はこの状況をどう打開すればいい』
「あー……」
言葉に困る俺は電信柱の隣に並んでしゃがみ込むと、宮川の肩より冷たくて固いそれに頭を預けて考える。
『寒い』
「ごめん」
堀内が待たせてるのに、なんで俺が謝るんだろ。
……一番の原因は俺か。
『――あ。やばい、出てきた』
――ブツ
「え、宮川?」
機械音が流れる携帯を見つめる。
何がやばいの?
「あぁ、もう……」
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