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――ヴー、ヴー
また震え出す携帯。
俺は腰を上げて、画面を確認せずに電話に出る。
「はい」
『馬木』
お前か……っ。
さっきと同じ声に俺は、何故電話を切ったのかは聞かず、どうした?と尋ねながらまた夜道を歩き始める。
『あの女、』
「堀内な」
『……。「もう遅いから1人で帰ります」とか言って……タクシー拾って帰っていった』
「え」
……タクシー拾ってまで、宮川との空気が耐えられなかったか。
なぁ堀内、世の男は“もう遅いから”女を送るんだと思うよ。
『俺……帰っていいか?』
「あ、うん。ごめんな、気を付けて」
『……』
「大丈夫だから。堀内が勝手に帰ったんだもんな? 宮川はちゃんと、野崎に言われた通り役目を果たそうとした」
電話を切らない宮川に俺が言うと、暫くして『そうじゃない』と返ってくる。
『くそ……。馬鹿で、うるさくて、だから女は嫌いなんだ……』
「お、おぉ。どうした」
『本当に腹が立つ』
……堀内と何があったの。
『なんでこっちが気を遣ってやらないといけない。あれこれ言って大丈夫かと推察しないといけないんだ。本当に腹が立つ』
「宮川……」
『腹が立つ、が』
……へ?
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