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昨日から今日まで、堀内は一体、どんな想いでいたんだろう。
昨日タクシーで帰ったのも本当は、宮川との空気に耐えられなかったんじゃなくて。
もしかしたら、後部座席で1人運転手にバレないように泣いたのかなと思うと、心に煙る自責の念。
……悪者になりきれてないことなんて、俺が一番知ってるよ。
「いいなー、チョコ」
校舎を出ると、放射状の雲が浮かぶ青空を仰ぎながら野崎が口を開いた。
「チョコ?」
……あぁ。今日世間様は、バレンタインなのか。
最近やたら街中で、ピンクや赤を目にするようになったなぁと思った。
一昨日バイトに行った時は、チーフがレジ周りに紙で出来たハートを付けて回っていたし。
堀内に手渡された箱の中身は、どうやらチョコレートらしい。
「毒が入ってたりしてな」
爺ちゃんから貰ったという一眼レフのカメラを両手で支え、キャンパス内にある池の方にレンズを向けた宮川が言う。
「転けるよー?」
「宮川も食う?」
「こら馬木。彼女から貰った物を人にあげない」
「そういうもん?」
「そういうもん。よし、今日から馬木に、女子についての心得をレクチャーしてあげよう」
「俺、そっち方面はダメダメくんよ?」
「それはそれは。教え甲斐がありますね」
「――うわっ」
突然声をあげる宮川。
いつの間にか俺達の側から離れている宮川は、池を囲む花壇に足を引っ掛けたのか地面に倒れ込んでいる。
カメラを持っている手だけは地面から浮いていて、なんとかそれは守ったみたい。
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