溶かして固めたキモチ

31/32

586人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「ハハ、大丈夫かー?」 「怪我してないー?」 それから、野崎と宮川と大学を出て一旦アパートに帰る俺は、自転車に股がってバイト先へ向かう。 休憩室のロッカーでバイト服に着替え、レジまで行くのに売り場を歩いていると、至るところに“バレンタイン”の文字。 なんで気付かなかったんだろ。 「いらっしゃいませ」 会社帰りの客がレジに押し寄せてくると、出されたカゴにはラッピングされたチョコ、チョコ、チョコが入っている。 今日がバレンタインだって知ったからな――。 レジを打ちながら、目の前の人間のちょっと先の未来を想像してしまう。 「ありがとうございましたー」 今から誰かに告白すんのかな、なんて思いながら事務員らしき制服を着た女の客を見送ると、次の客のカゴを引き寄せる。 「お待たせ致しました」 ――ピ このカゴにも、チョコ。 少し違うのは、ラッピングされていない、普段から売られている見慣れた板チョコが入っている。 商品のバーコードを通していると、視界に真っ直ぐ折れ線のついた黒のスラックスが見えた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

586人が本棚に入れています
本棚に追加