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「ハハ、大丈夫かー?」
「怪我してないー?」
それから、野崎と宮川と大学を出て一旦アパートに帰る俺は、自転車に股がってバイト先へ向かう。
休憩室のロッカーでバイト服に着替え、レジまで行くのに売り場を歩いていると、至るところに“バレンタイン”の文字。
なんで気付かなかったんだろ。
「いらっしゃいませ」
会社帰りの客がレジに押し寄せてくると、出されたカゴにはラッピングされたチョコ、チョコ、チョコが入っている。
今日がバレンタインだって知ったからな――。
レジを打ちながら、目の前の人間のちょっと先の未来を想像してしまう。
「ありがとうございましたー」
今から誰かに告白すんのかな、なんて思いながら事務員らしき制服を着た女の客を見送ると、次の客のカゴを引き寄せる。
「お待たせ致しました」
――ピ
このカゴにも、チョコ。
少し違うのは、ラッピングされていない、普段から売られている見慣れた板チョコが入っている。
商品のバーコードを通していると、視界に真っ直ぐ折れ線のついた黒のスラックスが見えた。
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