溶かして固めたキモチ

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男が、チョコ。 さっきと同様、今から“男”に渡すんだろうかと考える。 ……あぁ、違う違う。 一般的には“そう”じゃないんだ。 なら、自分で――でも、この日に自分で買うかな。 まぁ俺も、バレンタインだと知らずに買ってたかもしれないし。 ただ甘いものが食べたくて、たまたまチョイスしたものがチョコだったってだけなのかもしれないし。  「1000円でございます」 “金額を伝える時はお客様とアイコンタクトを”のマニュアルの通りに客と目を合わせる俺は、 「……」 男の顔を見て、雷に打たれたような感覚を覚えた。 赤みがかった茶髪に、パーマが当てられたセミロングの髪。 細身のスーツ、少し緩められた首元のネクタイ。 20代前半かな。タイプすぎる。 「ぴったし……ですか?」 「あ、はい。ぴったり1000円――」 「ハハ、凄い」 きゅん……。 キリのいい数字に、いい大人があどけない笑顔。 「またお越し下さいませ」 見送る言葉にも心が籠るってもんだ。 傍から見ればレジ打ちは流れ作業にしか見えないかもしれませんが、こうして今日も癒しを貰っていたりします。 「いらっしゃいませ」 やっぱり男だ、なんて再確認してしまう俺だったが――。 バイトが終わって家に帰って堀内のチョコを食べると、これが案外美味くて。 これに金を出すか?と聞かれれば迷う外見ではあったけれど、口に入れるとジワッとすぐ溶けるチョコはちょうど良い甘さで。 これが思いの外、試験とバイトで疲れた体に癒しの効果をもたらすんだった。  
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