割引きチョコ(前編)

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  春休みが始まった。 が、携帯のカレンダーの立春の太字を見ても、外の空気はまだまだそれとは感じられない。 柔らかい太陽に見下ろされ、自転車のサドルに跨ってバイトへ向かう俺は、まだ長居する気でいる冬の冷たい風を切る。 「はよございます」 「あら、今日もお昼から?」 「春休みなんで」 「馬木ちゃんが早く入ってくれるから、お昼のピークも怖くないねぇ」 バイトに来るとすぐ、サービスカウンターに入って今日のシフトを確認する。 “7”か……。 ラッキーなことが起こればいいんだけど、なんて淡い期待を抱きながら自分に与えられた番号のレジに入ると、稼働中を知らせる7のライトを点灯させ今日のバイトが始まった。 「ありがとうございました」 ふとレジのつり銭トレーの横を見ると、半額シールの付いた商品がバスケットの中で山積みにされて売られている。 『お父さん。少し遅れちゃったけど…… はいコレ。ハッピーバレンタイン!』 ハートの形に切られた画用紙のPOPを目にする度、さっきから笑ってしまいそうになる。 台詞の語尾にハートマーク付けられたって、それ、半額シールが貼られてんだよ? 「またお越し下さいませ」 客の背中に向かって頭を下げる。 顔を上げて次のカゴに手をかけようとしたら、 「お疲れ」 低い声で声を掛けられた。
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