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「――野崎」
アウターはパステルグリーンのパーカーのみと、春を思わせる格好で野崎が立っている。
「寒くないの?」
「外に出たら日差しが暖かかったから、ジャケット脱いできた」
「代謝いいからな、お前」
野崎のカゴの中の商品をレジに通しながら店の外を見ると、俺が家を出た時よりずっと晴れている。
「なに買いにきたの?」
「バイトに行く前に何か腹に入れておこうと思って」
「あぁ、今日バイト? バイト先、喫茶店じゃん。店で食べてあげなよ」
「お洒落な“カフェ”です」
「フ、一緒だろ」
「まぁ――店で食べようかと思ってたんだけどね?」
ならどうしてスーパーに?と、口を閉じてカゴの中のサンドイッチを見つめる。
「店の前で、たまたま堀内さんと会って」
「えっ?」
ほら、と野崎が手で示す方を見ると、カゴも何も持っていない堀内がいる。
堀内はワンピースが好きなのか、大学ではほとんどそれを着ていて、今日もウールのツートンカラーの膝丈ワンピースを着ていた。
「いるなら声かけなよっ」
全く気付かなかった俺は驚いて、堀内はすみませんすみませんと腰を折る。
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