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後ろに客が並んでいないことを確めて、
「なんでアンタは何も持たずに並んでるんだ」
と聞けば、堀内は斜め上に視線をずらして体の前で手を組む。
「こっそり馬木の顔見にきたのに、俺に捕まっちゃったんだよね?」
財布から小銭をとり出す野崎が言えば、堀内の顔がみるみる赤くなった。
おいおい、バイト先だよ、ここ。
客が来なくて暇なんだろう、前のレジのパートのおばちゃんがさっきからチラチラ後ろを振り向いてくる。
「あー、じゃあ……これ。買って」
“じゃあ”ってなんだよ。
俺が指差した半額のチョコに視線を向ける堀内は、すぐにコクコクと頭を振る。
「……羊に鶏に……何にでもなるな、堀内は」
「……」
商品をレジに通しながら俺が言うと、へらぁと柔らかくなる堀内の表情。
なんでそこでその顔なんだよ、と頭の中でオレが吹き出して笑う。
「う、馬木さん、これが食べたかったんですか?」
清算を終えたチョコの箱を見つめながら、堀内が聞いてくる。
「え? いや、早く売れないと、そろそろ口頭で客に勧めろって言われそうだから」
「出たな、悪者馬木」
「堀内は断らなかっただろ」
「わ、私っ、これみんな買いますっ」
胸の前で拳を作る堀内を、俺と野崎がジト目で見る。
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