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「よし。真面目にやってるおめぇさんに、コレ買ってやる」
兄ちゃんはレジ横のバスケットからチョコを取ってカゴに入れる。
「いいんですか?」
「おうっ。これからも頑張れよ」
「う、す……」
名前も知らない人から貰うのは如何なものかと思うが、顔見知りだし、イケメン兄ちゃんからのチョコは素直に嬉しくて、礼を言って受け取る。
本当は、客から貰ったら駄目なんだけど、兄ちゃんの笑顔を見るとそんなことは言えない。
――それからというもの。
堀内がチョコを買ってから、土方の兄ちゃん、セーラー服の中学生にパート帰りの主婦、と俺のレジに置かれた割引チョコは立て続けに売れて。
俺のあがる時間になる頃には、バスケットの中は空になった。
「先に失礼しまーす」
事務所に挨拶をして、お疲れぇ、と間延びした声が飛び交う中、店名が書いてあるTシャツとエプロンを片手に店を出る。
「さむ……」
すっかり暗くなった空。
それでも夜がくるのは、真冬よりも1時間程遅くなった。
従業員専用入口から出てすぐに見える駐輪場まで歩いて行くと、外灯が切れかけているのか辺りが薄暗い。
客の兄ちゃんから貰ったチョコレートの入った袋を前カゴに入れると、コツ、となにやら音がした。
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