割引きチョコ(前編)

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「……?」 目を凝らして見てみると、会計済みのシールが貼られた見覚えのある四角い箱が入っている。 不審に思いながらそれを手に取ると、薄明かりに照らされた包装紙に文字が浮かんだ。 “馬木さんへ、ホワイトデーに返してください。堀内” ――堀内? 「え、これを?」 名前の横には、子供向けの4コマ漫画に出てきそうな羊の顔が描いてある。 目尻を垂らして頬を染めた羊のイラストに、それを見下ろす俺もポッと頬を染める。 いや、これは誰から見ても可愛いだろ……。 バイト先の自転車置き場でなに萌えてんだろ、俺。 制服をカゴに入れてスタンドを蹴ると、サドルに股がってハンドルに両肘をつく。 カゴから飛び出ているエプロンの紐を直すと、客の兄ちゃんから貰ったチョコの包装紙を丁寧に剥がす。 指にくっつくセロハンテープに苦戦しながら剥がし終えると、スーパーやコンビニでも一度は見たことのあるチョコレート菓子のパッケージが顔を覗かせた。 封を開けて1つ取り出すと、指の温度で溶けてしまわない内に口に放り込む。
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