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放課後の美術室。
学校の中であたしのいちばん好きな場所。
空気がしんとしてて、絵の具の独特の匂いと、誰にも邪魔されない、絵の空間。
ゆっくりと扉を開けるといつものように絵の具の匂いに出迎えられた。
目に飛び込んできたのは、夕暮れの赤に照らされたキャンバスと…先輩?
あたしはあのキャンバスを知ってる。
持ち主がわからなかった、あのキャンバスを。
背格好からみて男子であることは間違ない。
シャツの後ろはだらしなくズボンの外に、そのズボンはダボダボと。
でも、上靴は履き潰さず、無造作にセットされた髪。
茶色く見えるのは、染めてるからなのか夕日のせいなのか。
入口から入って真正面に大きなキャンバスを構え、一心不乱に描いている。
…あの、キャンバスに。
一心不乱というのは別に、危なく切羽詰まった様子などではない。
こちらに気付いてないようなのだ。
手が止まらず目的を持った動きをしている。
よほど集中しているのか、それともただ無視を決め込んでいるだけなのか。
…だって扉の開く音に気づかない筈はないもの。
そんなことを考えながらも、あたしは目が放せない。
彼の手元から。
あたしにはまだわからない何かが、彼の手で、まさ にに生まれてゆくのだ。
それはまるで───
「…魔法みたい」
ピタ、と彼の手が止まる。
やばい、声に出ていたみたいだ。
邪魔をしてしまった、とあたしは内心とても焦る。
それを知ってか知らずか、ゆっくりと彼が振り返った。
そして、にやりと笑って、彼は言った。
魔法使いだよ、と。
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