割引きチョコ(後編)

2/40
495人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  「ニキビ……」 今日、バイトが休みだというのに朝早くに目覚めた俺は、洗面台の鏡に向かって寝起きの掠れ声で呟く。 寝癖のついた自分はしかめっ面で、ちょっぴり不機嫌そうだ。 大学2年目の春休みも、すっかりバイト漬け。 長期休みだというのに遠出をすることもなく、毎日家とバイトの往復だ。 少し前までバレンタイン仕様だったバイト先のスーパーは、今度は桃の節句一色の飾り付けに変わって。 今は“ホワイトデー”の文字がデカデカと書かれた広告が、レジ横に吊るされている。 長いなと思っていた春休みも、気付けば半分過ぎていた。 「あー……くそ」 男だって、顎の下にニキビが出来れば気にはする。 女子の皆さん、擦れちがった男がニキビ顔だろうが汗臭かろうが、ヒソヒソ話を始めてやんないでほしい。 それ、耳の穴おっ広げて聞いてるから、男だからって何にも気にしてないわけじゃないから。 「痛い……」 バレンタインに、堀内に貰ったチョコを。 その数日後に、客の兄ちゃんから、また堀内から貰ったチョコを。 一度には食いきれないから、3日にかけてちまちま食べた。 ニキビとチョコに直接的な関係はないっていうけど……。 顎の下にぷっくり現れたニキビを見ると、人の好意はさて置いて、少しばかり差出人に呪いをかけたくなる。 が、呪文なんて知らない、人を呪う力も持っていない。 俺は、大人しく朝の洗顔を済ませた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!