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「やば」
携帯が時間を知らせる。
午後から堀内と約束をしていた。
今日は初めてのデート。堀内とデート。
何度も強調して繰り返すが、堀内と、デート、だ。
忘れると周りの連中の野次がうるさいから、前日の夜と朝にアラームをセットしておいた。
野崎が“ちゃんとデート服でいくんだよ”なんてメールを、家を出るギリギリの時間に送ってくるから頭が痛い。
このままでは、待ち合わせに遅れてしまいそう。
デート服ってさ……?
喉で、んー、と低い声を長く引く。
デートといえば……普段よく着る服は選ばないようにしてたっけ。
とりあえず、既に着ているくたくたのパーカーは脱いで、普段あまり履いていない細身のパンツに足を通す。
「中は――」
ゆるくでいいや。
無地の白のドルマンTに頭を突っ込んで、買ったばかりのウィンターブルーのマウンテンパーカーを羽織る。
こうしてクローゼットの中をまじまじと見てみると、見事に青ばっか。
昔から好きな色なんだ、仕様がない。
――ジッ
チャックを首元まで上げて、カバンを持たない俺は財布を後ろポケットに差す。
時間を刻む携帯の待ち受け時計を確認しながら一度家の中を見渡すと、靴の爪先を叩きながら玄関の扉を開けた。
階段を降りていると、お気に入りのヴィンテージブーツの底がガツガツと鳴る。
……ちょっとちょっと。これ、気合い入れてるって取られるの嫌なんですが。
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