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深瀬さんと来ていることを知られたくなかったのか。気付かせたくなかったのか。
深瀬さんの腕を引きながら、堀内の方を見れなかった。
自分のことなのに……まるで分からない。
堀内は深瀬さんの存在を知っている。
付き合うことになった時も、そのことを話して理解も得てる。
それなのに。
堀内のことを見れなかった。
「あの人がそう?」
「うん」
「そうか」
「……」
「のの、頑張るんだぞ」
「……うん」
歩きながら、人とぶつからないことだけを注意して思い耽ていると、横から深瀬さんが俺の顔を覗き込んでくる。
そして、片方の耳を塞いでいる手を剥がされた。
「静かな所に行こうか」
「あ……ごめん、深瀬さん。今日は、帰らせて」
少し頭が痛い、静かに呟くと、深瀬さんが心配してくれる。
「薬買っていく?」
「ありがと。でもいいよ。寝ればすぐに治ると思う」
頭が痛いなんて嘘だった。
このまま堀内のことを考えながら深瀬さんといても、どうしようもないと思った。
別れ際、深瀬さんは手に持っていた袋を俺に差し出すと、『あげる』と言って帰って行った。
せっかくの休日なのに悪いことをしたかなと思うと、貰ったマスコット人形のことも素直に喜べなかった。
袋の中から見上げてくるそいつは可愛かったが、心は全然弾まないんだ。
俺と深瀬さんが一緒に去るところを見て、堀内はどう思ったんだろう。
どんな表情で、どんな感情を抱いた?
どうして俺は……今になってそんなことを気にするんだろう。
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