もしかしてだけど

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  春休みが明け、前期授業が始まった。 約2ヶ月ぶりの講義。 教壇に立った山先の口からは、 “就職活動” “筆記試験対策” など、進級出来て安心している俺達生徒が耳を塞ぎたくなる単語が、次から次へと出てくる出てくる。 「就活の準備の必要性とは――」 熱心な指導は時間いっぱい続いて、いつもより長く感じる講義が終わると、教室のあちこちからため息が漏れた。 俺も一息吐いて、後ろの宮川と隣の野崎には声を掛けずに、カバンを斜めに掛けながら席を立つ。 教室の後ろに向かってスタスタと歩いていくと、今日はいつものように髪を下ろしている堀内を見つけて、机の前に立って声を掛けた。 「いる?」 「……へ?」 まだ席に座って、机の上に広げている教材を片付けていた堀内は、顔を上げて手を止める。 「う、馬木くん?」 大層驚いた顔で名前を呼ぶ堀内。 俺は、手に持っている四角い箱をルーズリーフの上にぽいと置く。 「え」 バイト先のスーパーでレジをしていると、小さな子供がこれを持ってきた。 女が貰って喜ぶ物なんて到底分からないが、堀内の好きそうな物なら分かる。気がする。 バイトあがりにお菓子売り場へ寄って商品をレジに持っていくと、パートのおばちゃんに『馬木くん、こういうのが好きなの?』とにこやかに言われてしまった。
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