ふたりの告白(後編)

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校舎の方にカメラのレンズを向けたまま器用に歩いている友人を、じーっと見つめた。 宮川は、自分が中庭のど真ん中でカニ歩きをしていことになんて気付いてないんだろうな。 「危ないよ」 注意したその直後だった。 相撲の四股(シコ)踏みをもっと低い位置で繰り返すように歩く宮川は、じりじり近付いてくると俺の胸にぶつかる。 校舎を出てからずっと、接着剤でくっつけたみたいに顔から離さなかったカメラを離して、俺と目を合わせる宮川。 俺にぶつかったからなのか、眉を上げてキョトンとした顔を向けてくる。 「ぶつかったのが俺でよかったな」 「いや……」 「なに」 「男と堀内の他に、野崎もいたような……」 「野崎?」 なに言ってんだと口の端を上げる。 あいつは今日も“教授に声を掛けられた”と言って、教室を出る俺達をにこにこ顔で見送ってただろ。 「見間違いでしょ。今頃、山先にいいようにコキ使われてるよ。ほんと、人が良すぎるのも問題だよな」 大事そうに両手でカメラを持っている宮川の腕を引いて、行くよ、と歩を進める。 「似てる奴がいるもんだな」 「そらね。この大学に何人の人間が通ってると思ってんの」 仮に宮川の見間違いじゃなく、野崎だとするよ? 鉛筆男と堀内と、何してんの?ってなるよね。 「ピントは合ったの?」 「あぁ、痩せた男だった。髪が真っ黒で――昨日店で話してた奴か?」 「そうだね」 答えながら、早く大学の敷地から出たいと思う。 堀内の怯えて青ざめた顔を思い出すと、今すぐ爪先を校舎に向けて走り出しそうだった。 「宮川、カメラ首に下げて。ちゃんと真っ直ぐ歩いて」 「あぁ」 ――この時。 宮川の言葉に耳を傾けて、不審に思って、自分の感情のままに動いていたら、もっと早く知ることが出来ていたのかもしれない。 まだ俺が知らない 堀内と男と、野崎の関係――。  
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