ふたりの告白(後編)

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最後まで俺の記憶に残っている母さんは、今も俺の頭の中で女の声で鳴いてる。 親父が仕事に行って留守にしている家に、こっそり男を連れ込んできて――。 あの光景を思い出すと、今でも吐き気がする。 同じ家に住んで傍にいた親父よりそっちを選んだ母さんのことを思うと“ただ傍にいられるだけで”と言う堀内の言葉が綺麗すぎて。 いつか悪い男に捕まって、俺の親父の二の舞いになりそうで……見てられない。 「……」 「……」 俺と手を繋いでいる間、堀内はずっと1メートル先の地面を見つめていて、たまにそわそわと顔を背けたりした。 力加減が難しくて、手を繋いでいるのに繋いでいる感覚がない。 でも、息を吹きかけたり擦ったりしたわけでもないのに、繋いだ方の手が温かかった。 家の近くまで来てそっと手を離すと、堀内はこの上ないくらいに顔を赤くしている。 繋いでいた手に空気が触れて、さっきまであった温もりも消えていく。 一度触れてしまったら、もう、駄目な気がする……。 ほら、堀内はどこも変わらず堀内なのに、見ると何かが違うんだ。 何が違うって、堀内を見る俺の方が変わったんだよな。
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