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「馬木くん」
来た道を引き返そうとしたら、自分を呼び止める声が聞こえた。
胸の前で手を握って張り詰めた顔をした堀内は、まっすぐな視線を向けてくる。
「好きです」
「……」
微かに口を開けるが、すぐには何も返せない。
視線が交差したまま、静かな時間が流れる。
学校の食堂でもそうだ。
この人ほんと、突拍子もなくそういうこと言ってくれるよね。
ネガティブなこと言ってんなと思ったら、アクティブになったり。
「知ってる」
一瞬頬に笑みを浮かべると、堀内に背中を向けて歩き始める。
2、3歩歩いたところで気付く。
体の真ん中が、何やら騒がしい。
なんだこれと思う俺は、心の中で『まさかお前、女相手にそうなってんの?』と、いつかの自分に指を差されてせせら笑われている気分。
堀内にドキドキするとか、なんか悔しいんだけど。
目を薄めてぶすっとした顔で、堀内と歩いた道を引き返す。
本当は気付いてる。
とっくに酔いはさめてるってこと。
まともな思考の中で、抱きしめたいと思った。手を繋いだ。
元の顔に戻して、薄い雲の向こうが見える明るい空を見つめる。
そういえば、今見上げているこの空にも自分の行動を見られてんだよな。
――それからは、視線を地面に落として歩いた。
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