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「おい、馬木」
1日の講義が終わって暮れていく空の下、宮川とキャンパスの中庭を歩く。
「なに。また転ぶよ?」
俺の後ろにいる宮川は、飽きもせずさっきからずっとカメラのファインダーを覗いている。
色を濃くしていく夕焼け。
それを背にした校舎に魅了されたらしくて、さっきからパシャパシャとシャッター音を響かせていた。
「……。校舎の中に、堀内らしき人物がいる」
シャッター音がしなくなったと思って後ろを見るが、まだファインダーから目を離さずにいて、意外なものでも見つけたような声で言う。
「堀内も、講義が終わって帰ってんでしょ」
やっと名前覚えたんだ、と前を向きながら言えば、
「男といるぞ」
と、聞いてもいないのに落ち着いた声で状況を説明し始める。
男、ねぇ。
「そいつ、細いの? 髪はどんな?」
パーカーのポケットに手を突っ込んで、のったり空を仰ぐ。
「ピントが合わん」
「なら言うな」
「ちょっと待ってろ」
「ノリノリだなおい」
そんなに確認してくれなくても、誰といるかなんて見当が付くよ。
モヤっとして、それが体に沁み込んでいく様な感覚を覚える俺は、顔を正面に戻して別のことを考える。
そうだ、深瀬さんの告白。断るにしても、なんて言おう。
「おい――」
電話で言う? でもここはやっぱり、直に会ってちゃんと――。
「馬木」
「あぁ、ごめん」
宮川に呼ばれて考えるのをやめる俺は、足を止めて振り返る。
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