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「え?」
やっと、搾り出すようにして出た声が、自分で聞いても困惑しているのが分かった。
『本当は、会って言いたかったんだけど』
えっと――ちょ……っと、待って。
深瀬さんとは後腐れのない関係を築けてる、って言ったのは、誰だ?
「そんな、素振り……」
『ごめんね、馬木くん』
受話口で謝る深瀬さんの声は、年上の大人の男の口から出たものとは思えない程、酷く、痛々しかった。
思考が追っつかないって、このことだと思う。
『また……連絡してほしい。彼女、体調悪いのに引き止めて、ごめんね』
じゃあ、その言葉を最後に電話が切れた。
“好きなんだ”
何度も耳の奥で再生される深瀬さんの声。
ツー・ツー、と不通音が鼓膜に届いてハッとする。
深瀬さんに告白された、よな。
好きって、そういう意味?
目の前の鉛筆男は誰なんだ、とか。
なんで深瀬さんが俺のことを好きって言うんだろ、とか。
軽く混乱どころじゃない、度外れて頭の中がパニックになる。
まるで、俺が綺麗に並べたカードを人の手によってぐちゃぐちゃに混ぜられたみたいに。
訳が分からないまま、その場から一歩二歩進んで、2人に近付いていく。
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