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堀内の耳元でボソボソと何かを呟いてる男。
その頭にゆっくり手を伸ばして、押し退ける。
「はい、そこまで」
俺とさほど身長差のない男は、同じ目線で俺を見る。
目が据わっていて、俺が視線を反らすまで動かない瞳。
「彼氏と上手くいってるんだ」
俺に視線を向けたまま言うと、堀内の腕からダランと手を離す男は、どうやら俺と堀内の関係を知っているみたいだ。
近くで見るともっと痩せて見える男は、手首の骨が浮き出た手をダルそうに首の後ろに運ぶと、抑揚のない声で呟く。
「また、話聞いてもらおうと思ってたのに」
そう言い残してゆっくり歩き出す男は、大学の方へと歩いて行く。
のそのそ横断歩道を渡る男から目を離すと、全く口を開かない堀内を見下ろす。
ずっと俯いているからか、後ろ髪が左右に分かれて白いうなじが覗いていた。
なんで女って……こんなに細いんだろ。
堀内の、女の細い肩を見て、いつもそう思った。
痩せただ太っただ、女の口から毎日1回は聞く言葉。
もっと肉付けて、強くなれよ。
耳に障る高い声で笑っていたかと思えば、ヒステリックに泣いて喚いて。
誰かに守ってもらわないと生けてけない。
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