犬鬼灯 【イヌホオズキ】

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『四月一日 羊』 「……わたぬき、よう?」 「そう。春になって暖かくなって、服から綿を抜くでしょ?そこからなんですって」 「へぇ……」 渡された紙には、角張った字が並んでいた。女の子らしくない。少しだけ、意外だった。 「あ……ごめん、僕用事があったんだった」 「じゃあ、バイバイね。来てくれてありがとう、光」 ひら、と四月一日の真っ白で細い腕が振られる。賀山は俺とすれ違い様に、 「白色の絵の具。羊に見せて。ばい」 「っあ、バイバイ」 振り向きもせずに帰って行った。ひらひら右手を振って、左手には鞄を持って。あの鞄は通学用のやつじゃない、通学用のやつは背中に収まっているし……とどうでもいいことに気付いた。 「……絵の具……」
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