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大きな歩幅。私の歩調に合わせてくれる野崎さんは、前を向いたまま静かに口を開く。
「トイレから出てきた詩乃、泣きそうな顔してたけど、中でどんな話してるの? それとも、何かされてたりする?」
「……」
「え、言えないようなことされてる?」
「……今日も、馬木くんと宮川さんに嘘ついたんですね」
「あぁ、今日はいいでしょ? 宮川が一緒に帰るって言ってたし」
それ以上何も言葉が浮かばなくて、口をつぐむ。
「詩乃、駄目じゃん」
「……駄目、ですか?」
「あいつの呼び出し無視して、また待ち伏せされたんでしょ。馬木が勘ぐってたよ」
勘ぐる……。
野崎さんに、どんな風に話したんだろう。
ちょっと気になる。
「嬉しいの?」
「へ」
「口ニヤけてる。さっきの今で、よくそんな表情出来るねー」
緩んだ口元を手で覆って隠す。
「ほんと、詩乃はいいね」
え――?
ため息を吐くような声が聞こえて野崎さんを見上げると、目を無くして微笑まれた。
野崎さん……?
何度も見ているにこにこ顔に、違和感を感じる。
笑ってるのに、笑ってないような。
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