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「そうだ。馬木に番号教えたの、俺ね」
「う、うん。そうなんだろうなって思ってた。あの、ありがとうございます」
かかとを浮かせて、かかとを着けて、それを繰り返して歩く自分の足元を見つめながら言うと、隣でクスクス野崎さんが笑う。
「ありがとう? どうして?」
「なんとなく……」
「ふーん。もっと詩乃が嬉しくなるような話があるんだけど、聞かせてあげようか」
私が、嬉しくなる?
「今日、馬木がアドレス知りたいって言ってたよ」
ゆっくり肩を浮かせる私は、目を丸くして野崎さんの目を見つめる。
「もしかして……私の……」
「そうそう」
「ほ、ほんとですか?」
「今度は自分で聞いてみたら?って促しておいたから、その内聞かれるんじゃない?」
それが本当なら、嬉しい。
”嬉しい”の言葉には収まらないくらい。
心がスキップしてるみたい。
“別にいいよ”
“堀内さんが馬木に言えたら”
前川さんに言われた言葉が、あの抑揚のない声で再生される。
「……」
心はスキップをやめて、どこかで重たい鉛を拾ってきた。
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