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「あれ、そんなに嬉しくない?」
「嬉しいです」
「なら、なんでそんなに浮かない顔してるの」
「……馬木くんに前川さんのことを話したら、嫌われちゃいますよね。アドレスも、なしですよね」
「まー、自分を好きだって言ってる子が、まさか他の男と男子トイレで密会してるだなんて知ったらねぇ。馬木じゃなくても、幻滅すると思うけど」
「そう……ですよね」
「例えばそのことを知った馬木が、辛かったな、って詩乃に同情したとするよ」
ないと思うけど、と野崎さんのその言葉の釘が、私の胸にグサリと刺さる。
「でもそれ以前に詩乃、言えるの?」
「……」
「俺は言ってあげないよ?」
「い、言ってくれなくて大丈夫です」
「ほんと、今いい感じなんだから、ボロが出る前になんとかしなくちゃねぇ」
校舎の外に出て大きく伸びをする野崎さんとは対照的に、私は縮こまるように背中を丸めて歩いた。
なんとか……。
何も思いつかないよ――。
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