ひみつごと

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馬木くんから、電話がかかってきた。 心で呟いた瞬間、今まで巻き上げたフィルムを1枚1枚頭の中で現像していくみたいに、馬木くんと付き合い始めた最初の頃の記憶が頭に過ぎった。 あの頃の馬木くんは、私が何か喋らないとふらっとどこかへ行ってしまいそうで。 どこか素っ気なくて、“なんで傍にいるの?”って思われてるのが雰囲気で分かった。 あの日のことを考えたら、今の私は『幸せすぎですね』と病院の先生にでも言われて、このまま死んでしまうんじゃないかと思う。 もしそうなっても。 『会って、話がしたいんだけど』 「え――」 幸せなまま死ねるのなら、いいんじゃないかなぁ――なんて安気に思う私は、急いで部屋を飛び出していた。 呼び出された場所は夕方立ち寄った公園で、一瞬あの時の感情を思い出すけれど、今は――忘れられる。 だって、馬木くんから会おうって言ってくれたんだ。 玄関を出たところで自分の格好が部屋着であることに気付いて、ギョッとする。 ガチャン、と背後で玄関の扉が閉まる。 またこの扉を開けて、靴を脱いでドタバタ階段を上がって、クローゼットを開けて服を選んで――。 あぁ、そんなことしてたら時間が勿体ないよ。 そう思う私は、爪先で地面を蹴った。
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