極光の章

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最後に、光はお腹に手を重ねた。 「霧彦さんにはまだ言っていませんが……この子の名は虹の春と書いて虹春(こはる)、霧と光、梅雨と夏より生まれた春の子です」 墓には『真栄城家之墓』と刻まれ、隣に鎮座する石碑には戒名でつづられた『秋人』と『美冬』の名が刻まれていた。 「光様、そろそろお時間です……」 光の背後に、1人の女が立った。 「冥」と言って、光が後ろを振り返る。周防冥がそこにいた。 光は墓に向かって小さく説明した。 「……光は、霧彦様の下から一時的に姿を消し、実家に帰郷して準備をいたします」 そして立ち上がると、光は冥に「本当にいいの?」とだけ訊いた。 「はい……ぼくは……ぼくも、償うと決めたのです」 2人の女は霊園の出入り口に向かいながら会話した。 「償ってからは?」 と光が冥に訊くと、冥は唇を内に含めてから答えた。 「今は……世界から消えてしまいたいと思っています」 突然、光が立ち止まり、冥の手を握った。 「……死んではダメ。死んでも、何も生まれない」
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