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殺伐とした家族間の空気、すなわちこの屋敷の空気は最悪で、祖父の死も手伝い、彼女は季節の変わり目の曇天やディスプレイの向こうを眺める時間が激増していた。
そして祖父の死は、彼女の心に、釣り針をひっかけたような疑問を与えていた。
昔、一度見たことがあったような、そんなデジャビュとも言える疑問だった。
大人びたため息とともに、憂鬱な気分のまま、20歳の健康的美女はロータリーにある噴水の前に立つ。
やがて銀色のセダン車が到着し、運転席に座る彼の顔を確認した。
その瞬間、光の胸の奥に、春風が吹き、何かが蘇る。
それが恋の芽生えであっても、彼女はその感情の名前を知らなかった。
確かに言えることは、この屋敷に革命が起きる、いい予感だった。
継いで、僅かに煙草の臭いと、安価なシャンプーの匂いがした。
それが、光が香る、大和霧彦という男のはじめての匂いだった。
光は、そのとき大和とした会話のほとんどが上の空だった。
沸き上がる衝動を誤魔化すように、恥ずかしい気持ちを隠すように、彼女はパワーウィンドウに脚を載せて、大和霧彦にこう言った。
「……このいやらしい格好のまま、アマデウスを朗読致しましょうか?」
回想物件7ブンズパビリオン
完
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