『ボタン』

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『ボタン』

 また一人、消えた。 「……君が、やったのか?」  僕がそう訊ねると、彼女は真っ直ぐ此方を見据えたまま、顔色一つ変えずに、 「ええ……そうよ」 と静かに答えてみせた。  その言葉と表情からは、後悔も、自責の念も窺えない。  きっと彼女は、何一つ間違った事はしていないと、強く信じているのだろう。  だからこそ、自分を守る為に、どこまでも非情になる事が出来る。  彼女の大きな薄茶色の瞳に宿った、仄暗く、しかし確固たる意志を示す鋭い光が、ぐらり、ぐらりと揺れるのが見えた。僕はそいつに、恐怖を覚える。  いや……思い出したと言った方が、正しいかもしれない。  頭の中の、ずっとずっと奥の方に押しやり、深く沈めていた記憶。そいつが、汚泥の中の蛙のように、ゆっくりと這い出してきた。  
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