13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
『ボタン』
また一人、消えた。
「……君が、やったのか?」
僕がそう訊ねると、彼女は真っ直ぐ此方を見据えたまま、顔色一つ変えずに、
「ええ……そうよ」
と静かに答えてみせた。
その言葉と表情からは、後悔も、自責の念も窺えない。
きっと彼女は、何一つ間違った事はしていないと、強く信じているのだろう。
だからこそ、自分を守る為に、どこまでも非情になる事が出来る。
彼女の大きな薄茶色の瞳に宿った、仄暗く、しかし確固たる意志を示す鋭い光が、ぐらり、ぐらりと揺れるのが見えた。僕はそいつに、恐怖を覚える。
いや……思い出したと言った方が、正しいかもしれない。
頭の中の、ずっとずっと奥の方に押しやり、深く沈めていた記憶。そいつが、汚泥の中の蛙のように、ゆっくりと這い出してきた。
最初のコメントを投稿しよう!