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「いらっしゃいませ」
ドアを開くと、バーテン姿の中年男がカウンターの内側から声を掛けてきた。
店内は、清潔かつシンプルな内装でカウンター席がメインのごく普通のバーだ。
テーブル席は空いていて、カウンターの端に客が一人だけ。
とりあえず適当な席に腰を下ろす。
「ご注目は?」
「そうだな…、ブラッディ・メアリーを」
俺はとっさに彼女が好んでいたカクテルを注文した。
未練がましいが、彼女を忘れるなんて無理。
ハァ~と深い溜め息をつくと同時に、ふと視線を感じてカウンター席の客をチラ見する。
カオリ?
一瞬彼女かと勘違いするほどその客は似ていた。
しかし、こんな地味な店にまちがっても彼女は入らない。
カオリはブランド好きで、派手な店を好む女だった。
でも似ている…
他人をじろじろ観察する趣味はないが、よくよく観ると、彼女に似ているその人物は男だった。
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