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音楽室そばの階段を駆け下りて、喧騒の中教室へ向かった。
授業はもう終わった。カバンを取って、早く帰ってしまいたい。
すると、学習能力のない私はまたやってしまった。
顔面に衝撃があって、上半身の重心が後ろに行ってしまいふらついた。
そんな私の手を、感触だけでしっかりした男性のものだと判る手がガシッと掴む。
「危ね。大丈夫か、芹沢」
軽くチカチカと星が飛び交った視界の中に、きょとんとした浅海先生の顔があった。
昨日みたいに藤原くんではなかったことにほっとしながら、私は自分の足でしっかりと立つ。
「ご、ごめんなさい先生」
すると、浅海先生は私の顔を覗き込み、「んん?」と面白そうに眉根を寄せた。
「何だ、お前、泣いてるのか?」
からかうようなその口調に、ビクッと肩を竦める。
……そうだ。この人はこういう感じの人だ。
授業のさなか、出席を取る時や内容を説明してくれる時は、ものすごく真面目でキリッとしてるんだけど。
浅海先生は、各々その日のことを始めるなり、余計な話をしたり水を差してきたりする。
私は体育の授業では優秀な方じゃないから、目立たないおかげで変な絡まれ方はされてないけど、運動神経のいい人はよく冗談で貶められたり、からかわれたりしている。
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