【罪は昏い深海へ。】

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   飲みも喋りもできず、皿の取り分けという気遣いすらも見せない教師1年生の男を教育していたのだと、流華さんは舌足らずでそう言った。俺の背で。  流華さんが教育を施していたはずの、彼女の後輩連中は俺を見るなり目を輝かせて帰っていった。  俺は、この酔っ払いの人妻を押し付けられてしまったわけだ。  パンプスを履かせたものの流華さんの足首は歩き出せば即捻挫、というくらいぐにゃぐにゃに力が入らなかった。  だから俺が背負って歩くしかなかったのだ。こっちだって酔っ払いなのに。  浅海さんは彼女に呼び出されて帰ってしまったし、俺としてはあまり芳しくない状況だった。 「……で、どこまで送ればいいんですか?」  俺としては、適当にタクシーを拾って、流華さんをそこに押し込んで身軽になってしまいたかった。  けれどさっきから週末の道路にはタクシーが通らない。  用がないときにはしょっちゅう見かけるのに、こうして必要なときには見つからない。  ……探し物の法則なんて、くそくらえだ。  大きく溜め息をついた瞬間、びくりと身体をしならせる。  流華さんが、俺の耳に噛み付いていた。 「……やめようか、そういうの。大人しく帰って」  耳元でふっと笑うと、流華さんはゆっくりと俺の背から降りた。  ふらつく彼女を放ってはおけず、眉根を寄せてじっと様子を窺う。  流華さんはパンプスを脱ぐと、裸足でアスファルトを歩き出した。 「流華さん、危ないから」 「ねえ」 「うん?」  彼女はくるっと振り返ると、俺を観察するような目で見つめる。 「あれから、いい子できた?」  俺を心配しているようには見えなかった。  目の前の生々しい女の好奇心に、俺はああまたか、と軽く絶望する。  決して品のいいものじゃない。  好奇心とはそういうものだ。  そしてそれを俺の前では隠そうともしないんだ、この人も。 .
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