【罪は昏い深海へ。】

5/17
前へ
/40ページ
次へ
  「そんなの、いるわけないでしょう」 「あら、そう。その気にさえなれば途切れたりしないでしょうに、あなたなら」  少し馬鹿にするようなその言葉に、むっとする。 「……消耗品じゃないでしょう、そういうのは」 「まあ、そうだけど」  街灯の下で、流華さんはガードレールにもたれるようにして座った。  そこに落ち着くようにして、彼女は煙草を取り出して火を点ける。 「まだ、忘れられない?」  ふうと紫の煙を吐き出しながら、流華さんは俺を見る。その瞳に、アルコールの酔いの気配は既になかった。 「流華さんには、関係ないよ」 「あら、関係ならあるでしょ。……昔の女っていうのは、男にとっては何かと便利なもののはずでしょ?」 「あなたが独り身ならね」 「残念ながら、今日のあたしは独り身なの」  携帯の時計を見ながら、流華さんは笑った。 「またそういうことを……」 「本当よ。あたし達、土曜日だけはお互いに絶対干渉しないの。夫婦生活を円満に回していくために、独身に戻る。今日は、そういう日」 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加