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はらはらと、空から白いものが舞い落ちる。
……雪。真っ白な。
それを見て、ようやく寒さに気が付いた。
夜が深まる程に、冬の寒さも深くなる。
遠くで揺れるテールランプ。
しばらくして、探していたはずのタクシーが通り過ぎた。止めようと思えば、止められた。
「……流華さん」
「ん……?」
「……何か、やりきれないんだよ。何を見ても何をしても、表面だけ滑っていくみたいで。楽しく生きたいなんて思ってないけど……痛くも、なくて」
「痛いことが生きてる実感……? 相変わらずまるで中学生みたいね、あなたは」
「生きてる実感なんて、欲しくない」
「……じゃあ、あたしがあなたを汚してあげる。もう、どこにも戻れないくらい、真っ黒にしてあげる」
黒。
何ものにも染まらない、唯一の色。
思い出した。
夜の闇の中には、悪いものも潜んでいることを。
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